PSpice(評価版)でパワーアンプ出力段をStudyする
その2



バイポーラトランジスタはFETと違って電流で動作する。

だから、SEPP出力段が負荷に電力を供給するために必要なコレクタ電流は、その1/hFEのベース電流が前段から供給されないことには決して流れない。要するにバイポーラトランジスタは必要なベース電流が供給されなければその能力を発揮できないのだ。

当たり前。
なのだが、8年振りにNo−174、No−176と連続してバイポーラTRを終段に起用した完全対称型パワーアンプが発表されて・・・

「君のNo−139(もどき)たちは大丈夫なのかね・・・」 はっ。m(__)m

という訳で、2段目差動アンプのSEPP出力段ドライブ能力≒SEPP出力段の低インピーダンス負荷ドライブ能力についてちょっとシミュレーション。




No−139の2段目差動アンプと出力段である。

2つの電流源が2段目差動アンプの無信号時の電流出力を担当している。これにシリーズとなっている相互に位相反転した方形波電流源が信号出力電流を担当し、全体として2段目差動アンプの理想動作状態を模倣(シミュレート)している。

終段ダーリントンSEPPはNo−139そのものだ。おっと、エミッタ抵抗を省いている点は違うか(^^;

取りあえず終段2N3055のアイドリング電流は少な目に100mAである。




この場合、この終段のアイドリング電流の設定により2段目差動アンプの動作電流は規定されてしまう。このモデルでは上のとおり5.64mAだ。No−174,No176のように2段目に定電流回路を使用しないNo−139型式ではそれが必然だ。まっ、直結アンプだからもとよりこんなもの。

そして、2段目は差動アンプだからその動作点が5.64mAと決定すると動作範囲も5.64mAを中心として0mA〜11.28mAに決まってしまう。すなわち、2段目差動アンプが終段SEPPに供給出来る電流は最大でも11.28mAなのである。

要するに2段目差動アンプはこの場合11.28mA以上の電流を終段SEPPには供給できないわけなので、では、その電流は終段が負荷をドライブするのに十分なものなのか? がテーマなのである。

そこで、出力負荷のR1をパラメトリックに2Ω、4Ω、8Ω、16Ωと変化させて、その方形波応答を観るのである。

そのピークを見れば答えは一目瞭然。という思惑だ。(^^)



実際に波形を観る回路はこれ。
違いは入力方形波の振幅ピークが±5.65mAとなっていることだけである。上はアイドリング電流を観るためにわざわざプラス側だけの方形波振幅にしたもの。



結果はこう。

凡例左から負荷R1=2Ω、4Ω、8Ω、16Ωの場合。
負荷2Ω時でピーク14.9V、4Ω時ピーク25.7V、8Ω時ピーク40.5Vである。負荷16Ω時は電源電圧で飽和している。

今回は、ここに出力電圧が負荷に大体比例するということを観るのではなくて、負荷が
2Ω、4Ω、8Ω、16Ωの場合にこのSEPP出力段が出力可能な電圧の限界を観るのである。何故なら、これが2段目差動アンプが最大限に出力段をドライブした時のものだから。だから、ここで出力電圧の限界とは即ち出力電流の限界であり結果出力電力(パワー)の限界である。

そこでそのピーク電圧から計算すると、この出力段は負荷8Ωには40.5^2/(2*8)≒102W、4Ωには25.7^2/(2*4)≒83W、2Ωには14.9^2/(2*2)≒55.5Wの出力が限界であるということが分かる。それは即ちこの2段目差動アンプが出力段に出力させることが出来る2段目差動アンプの能力の限界ということなのだ。すなわち、負荷8Ω、4Ω、2Ωの場合はこれ以上いくら電源電圧を上げてもこれ以上の出力は2段目差動アンプの能力の限界により得られないということである。

では負荷16Ωについてはどうか、というとその場合は48.5V程度のピークになっているから73.5Wということになるが、それは2段目差動アンプの能力の限界によるものではなく電源電圧が50Vであることによる限界だ。

そういえばNo−139オリジナルの最大出力は電源電圧±50Vで100W/8Ωだったが、このシミュレーション結果からするとそれは電源電圧に規定されたものではなく、2段目差動アンプのドライブ能力に規定されたものだった、ということになる。がどうだろう。





さて、問題は我が139(もどき)は大丈夫か、ということなのだが、我がNo−139(もどき)の回路も素子もこれに同じだ。ただ、出力段の電源電圧が±34Vである点が違うというだけである。ので、このシミュレーション結果がそのまま使えるだろう。

で、このシミュレーション結果からして我がNo−139(もどき)は負荷8Ωに対しては十分なドライブ能力があり電源電圧で規定される60W程度の出力が可能であるが、4Ωや2Ωの負荷に対しては電源電圧を全て使い切れず、4Ωには83W、2Ωには55.5Wの出力が限界であろう、ということになる。

ここで折角の電源電圧を使い切れないのは残念だという見方も出来る。
が、実は低負荷インピーダンス対応能力は別途2N3055のASO限界でも規定されているから、それを考えると全く残念ではないのだ。

そもそもNo−139は4Ωや2Ωのスピーカーをがんがん鳴らすことを意図したものではないのである。そんなことをすれば2N2033の最大許容損失115WあるいはASO限界を超えてしまって逝ってしまうだろう。だからそうならないように終段に過損失保護回路が付加され、4Ω負荷に対しては42W、2Ω負荷に対しては13W以上の出力が出ないようにリミッターがかけられているのだ。

要するにこの場合2段目差動アンプの終段ドライブ能力を規定する2段目差動アンプの動作設定はこれで必要十分なのである。



が、4Ω負荷に対して42W出力で過損失保護するのはちょっと過保護ではないか。2N3055の許容最大損失からすれば4Ω負荷には100W程度の出力を供給することが可能なはず、と考える場合は話は変わる。確かに2N3055の能力からすると4Ω負荷にはその程度の出力を期待しても良さそうではある。

ま、そうは言ってもそれは公称インピーダンス4Ωのスピーカーに対応するというより、公称インピーダンス8Ωのスピーカーのインピーダンスが周波数によって4Ω程度に下がるものもあるので、この場合に負荷インピーダンスの低下に反比例した電力供給を図る、というのが期待すべきスペックではないか。と、この2N3055のモデルからは思える。

のだが、そうなると、上の2段目差動アンプの設定がボトルネックということになってくる。

そこでどうするか?なのだが、本体に手を付けることなく何とかなるのが一番良い訳で、簡便に終段のgmが大きくなれば解決するだろう。と先ず考える。そのためには2N3055をもっとgmの大きいTRに交換すれば良いのだが、それは簡単に踏み切れるものではない。

で、素人は姑息なことを色々と考えてしまうのである。 > (^^;

トランジスタのgmは動作電流が大きくなるほどに大きくなる。だから終段のアイドリング電流を大きくすれば電圧増幅度が大きくなり、結果、より少ない入力電流振幅で大きな出力が得られるのではないか、と。

そこで終段のアイドリング電流を3倍の300mAに増やしてみる。放熱条件からいってむやみに増やす訳にはいかないのだが、これだとまさにオリジナルNo−139の設定だ。




負荷2Ω時でピーク15.3V、4Ω時ピーク26.7V、8Ω時ピーク41.8V、負荷16Ω時は電源電圧で飽和、と、僅かに出力電圧は大きくはなった。
が、ほとんど同じというレベルだ。
しかもこちらは2段目の電流振幅が±5.85mAと増加しているから、それを考えると全く変わらないと言っても良いかもしれない。



そこで2段目の電流振幅を5.64mAと、最初の場合に揃えてやってみる。


負荷2Ω時でピーク15.1V、4Ω時ピーク26V、8Ω時ピーク41V、負荷16Ω時は電源電圧で飽和。

終段のアイドリング電流が増えると終段のgmが増え出力電圧が増えることには違いないようだが、その差は微量だ。

ふ〜む。そんなものなのか。



2N3055自体のgmを観てみよう。
DC解析。Vbe=0.4V〜2.8VにおけるIcの変化である。コレクタ側には8Ωを負荷した動特性だ。したがってIo=6A超で飽和している。

さて、この曲線の傾きがgmであるが、こうしてみるとgmが指数関数なのは立ち上がりのIcが500mA以下の小電流領域だけで、それ以上のIc領域では直線からさらにコンプレッサー特性で萎えてしまうものであることが分かる。へぇ〜、そうだったのですか。(。。)

と言っても、このモデルが現実の2N3055をどこまで正確にモデリングしているのか全く分からないので何とも言えないのだが(^^;




小電流領域を拡大してみる。

このグラフから概算すると、Ic=100mA付近でのgmは1.5S程度、300mA付近では7.5S程度であり、0.5A以上ではもうgmは一定になって9S程度であることが分かる。上のグラフと合わせてみるとgmはこの辺が最大でこれ以上のIc領域ではgmは徐々に低下してしまうものであるわけだ。

モデリングが正しいものであるかどうかが分からないのが、まぁ、こんなものか。

Ic=100mA付近でのgmは1.5S程度、300mA付近では7.5S程度と確かに5倍も違うのだが、上のように最大出力はどうかという場合はその時点でのgmが問題であって、アイドリング時のgmに期待しても筋違い、ということなのだろう。多分(^^;



では次に、終段SEPP入り口の2SC959のベース抵抗を大きくしてI/V返還効率を上げることで、と言うかベース抵抗に分流する電流ロスを下げることで終段のgmアップを図ってはどうか。と考える。

とまぁ、そう考えたのが実は我がNo−139(もどき)その2だ。

が、こうすると当然に2段目差動アンプの動作電流設定値が小さくなってしまうのでこの抵抗をむやみに大きくすることは出来ない。そこで330Ωなのだが、結果下のとおり2段目差動アンプの動作点は3.76mAに減ってしまった。したがってその出力電流範囲も0mA〜7.54mAと大幅に減ってしまう。

あちらを立てればこちらが立たなくなるのがこの世の常であるのだが、とりあえず我がNo−139(もどき)その2ではgmアップ効果の方が大きいことに期待したのであった。

ここにその成否が明らかになる。(^^;

結果を観てみよう。





負荷2Ω時でピーク14.3V、4Ω時ピーク25V、8Ω時ピーク39.4V、負荷16Ω時は電源電圧で飽和となった。
ベース抵抗220Ωの設定ではこれが負荷2Ω時ピーク14.9V、4Ω時ピーク25.7V、8Ω時ピーク40.5V、負荷16Ω時は飽和であったから、残念ながら終段gmアップの試みは結果的には上手くいかなかったことになる。

8Ω時の振幅比は、39.4/3.76=10.48対40.5/5.64=7.18であるからこの抵抗値を大きくすることが終段のゲインアップに寄与することは明らかだ。220Ωから330Ωと1.5倍にしたことで10.48/7.18=1.46倍ゲインがアップしたことになる。

が、可能な振幅範囲が3.76/5.64=0.667倍になってしまうためトータルでは1.46×0.667=0.973と、わずかではあるが減少してしまったのだ。意図した結果とは逆になってしまった訳である。

ということは、我がNo−139(もどき)その2は残念ながら成功していないということになる。しかもこの間の方形波応答を仔細に観察すると、前者に比較して後者の方形波の立ち上がり立下りのスピードがややダウンしてことが見て取れる。

そうなのか・・・。と、我がNo−139(もどき)その2をしばし眺める・・・(嘆)

「姑息なのだよ」 へへぇぇぇ・・・ m(__)m






やはりNo−139形式ではこれ以上のSEPP出力段の出力アップ、特に低インピーダンス負荷に対する出力アップは困難である。
これを可能にするためにはやはりベース抵抗のアップと2段目差動アンプの動作電流アップが両立する回路にすることが必要だ。

それは2段目差動アンプに定電流回路を付加することにより実現する。
やはりK先生に従うしかないか・・・(^^;

2段目差動アンプの動作電流設定は自由になったので思い切って10mAである。だからその出力可能電流範囲も0mAから20mAと大きく拡大する。ベース抵抗も1kΩだ。


これで2段目差動アンプが最大の±20mAの振幅をしたとして終段SEPPの出力電圧はどこまでアップするか。負荷は勿論パラメトリックに2Ω、4Ω、8Ω、16Ωである。




負荷2Ω時でピーク34.5V、4Ω時はピーク45.1Vであるが4Ω以上についてはもはや電源電圧によって飽和したものと見るべきだろう。

これであれば、理論的には2Ω負荷でも300Wの出力が可能であることになるから、2段目差動アンプに起因する出力段の出力制限要素は事実上なくなった。2段目差動アンプの終段ドライブ能力が大幅に向上し、合わせて終段自体のgmも大きくなって、結果終段の低インピーダンス負荷ドライブ能力も大きく向上したのである。

が、2N3055の最大許容損失やASOという制約はそのままであるから、現実にはその観点から出力を制限しなければならない。
その意味では2段目差動アンプの動作設定を10mAにするのは過剰設定ではある。




ところで、上の10kHz方形波応答波形を良く見ると、ベース抵抗が1kΩと大きいことによるのか立ち上がり立下りが更に鈍っていることが分かる。

そこでこれを少しスピードアップするためベース抵抗を220Ωにしてみよう。




やはりスピードアップしている。
が、終段の出力可能電圧は小さくなる。

実は2段目差動アンプの動作点だってA607の許容損失を考えて設定しなければならない。

など、あらゆる検討の結果がNo−174、No−176の回路である訳だ。

「当たり前だ。」 はっ。m(__)m





で、結論だが・・・

我が家で使用する限り8Ωスピーカーで最大出力を出すこともないのでパワーアップの要はない。し、4Ω以下のスピーカーをこれでがんがん鳴らそうとも考えていない。したがって我がNo−139(もどき)たちの処遇は現状のままで可。と決定。(^^;




さて、終段が大電流型MOSである場合は2段目差動アンプがNo−139形式で良いのは何故か?
それは、K先生おっしゃるとおりその場合は終段SEPPのドライブにTRのような大きな電流を要しないからである。

そこで、終段の2N3055を大電流型MOSの範疇と思われる2SK851に交換して同様にやってみる。

ベース抵抗を1kΩにすると2段目差動アンプの動作点が4mAで2SK851のアイドリング電流が87mAになった。
アイドリング電流はやや少なめだがまぁ良かろう。



方形波の振幅は勿論±4mAまで可能なのだが、内輪の±2mAである。



結果、

何と2Ω負荷でもピーク25Vが得られており、4Ω以上は電源電圧で飽和している。

2段目の終段ドライブ能力はこれで全く十分だ。ということが明らかである。




あえて2段目差動アンプの電流振幅を±3mAとしてみると、



負荷2Ωでも出力が飽和してしまうのである。

こうして比較すると、ドライブに電流を要するトランジスタの駆動というものは実に難儀なものであるということが分かりますなぁ・・・(^^;

それにこの方形波応答波形のあまりの違いよう。ちょっと唖然としてしまいます。

2SK851のピンチオフ電圧が高いためにドライバーの2SC960の動作電流が20mAととても大きいということもあると思われるが、それにしてもあまりに違いすぎる結果だ。
これだと2SK815の方形波応答はMHzに達するだろう。そのスピードは2N3055の2桁上だ。要するに次元が違う。

ふ〜む・・・。
この2SK851のモデリングは正しいのか、という点はあるのだが、やはり2N3055は“いにしえ”の素子なのだなぁ・・・、との感慨を深く抱かざるを得ないのであった。





そこでだ。この際思い切って2N3055という“いにしえ”の石を捨て、現代TRを終段に起用してみたらどうだろう。案外現代パワーTRは2N3055以上のgmと高速性を有しているかも知れないし・・・。

そこで、例として2SC5200である。“高速スイッチング用パワートランジスタ”とうたわれているがメーカー製オーディオパワーアンプにも使われているTRだ。

如何なる結果が得られるのか。同様にやってみよう。









なんと・・・

2SC5200。2SK851に匹敵する、というかそれ以上の高速性を発揮している。これも方形波応答は軽くMHzに達する。さすがに高速トランジスタだ、ということだろうか。
そのスピードは2N3055の2桁以上上である。

しかもこれで2Ω負荷に33.5Vが出力されており、4Ω負荷以上は電源電圧の50Vで飽和してしまっている。従ってこのシミュレーションに現実妥当性があるのであれば、2SC5200を終段に起用すれば2段目差動アンプはNo−139型式でも十二分に低インピーダンス負荷に対応できるのだ、ということになる。

・・・・・・。

う〜ん・・・“いにしえ”も悪くはないが、そろそろこういう現代版トランジスタを使ってみても良いのではないかなぁ・・・な〜んて(^^;

我がNo−139(もどき)で試してみようかなぁ・・・、安いし(^^;





が、この2SC5200。拾ってきた氏素性の不明なモデルなので現実妥当性は不明だ。
そこで、Vbe−Ic特性を描かせてみよう。


なんと・・・

この2SC5200。0.8Vから0.9Vの0.1Vで5Aだから、そのgm≒50S! 大電流型MOSもびっくりではないか。








ホントかいな・・・(^^;

したがって以上のシミュレーション結果には何の意味もない可能性も高い。“妖しきシミュレーション”の面目躍如だわなぁ(^^;




という訳で、毎度のことだが以上のシミュレーション結果にはな〜んの保証もない。ので悪しからず。

また、登場したPSpiceモデルについては何もお答えできないので重ねて悪しからず。(^^;







と、以上で終わりのはずだったのだが・・・(^^;


ふと、モトローラのディスクリート半導体部門を引き継いだのはオンセミだったよなぁ・・・と思いついて、オン・セミコンダー(株)のウェブサイトを覗いてみたのだった。
・・・
おぉ! 2N3055のPSpiceモデルが提供されているではないか!!
直ちにありがたく頂戴いたしたことは言うまでもありません。(^^)

勿論、MJ2955もありますし、2N3055の高耐圧・パワーアップ版であるMJ15015も現行品で、PSpiceモデルも提供されていますよん。(^^) FETの2N5460,5461,5462シリーズも載ってます。

で、早速そのモデルを開いて見ると「2004年1月25日に作ったモデルだぜ」と書いてある。出来立てのほやほやではないか。
と思いつつ、そのオンセミ純正の2N3055の特性を探るべくVbe−Ic特性を観てみたのだった。


う〜む・・・。上で使った2N3055のモデルとは大分違いますなぁ・・・











こちらが上の2N3055のモデルのVbe−Ic特性図だ。

一見して両者の大きな違いは大電流領域でのgmの低下度であることが分かる。

2SC5200のようにずっと指数関数特性ではなく、Ic=2A付近からgm上昇が萎えてしまってコンプレッサー特性になってしまう点は共通であるのだが、その萎え具合はオンセミ2N3055の方がずっと少ない。

したがって、gmもオンセミ2N3055の方が全体的に大きく、例えばIc=2A付近の0.1Vの範囲でみると、オンセミ2N3055が0.7Vから0.8Vで1.8Aであるからgm=18であるのに対して、他方は0.85Vから0.95Vで0.5Aであるからgm=5と3.6倍の違いがある。

同じコンプレッサー特性でもやはり出来たてのオンセミ2N3055は若い分ずっと元気がよいのか(^^;

結局、同じく2N3055のモデルと銘打たれていてもパラメータの設定が異なればシミュレーション結果も変わってしまうのはあたり前であって、問題はどちらが現実の2N3055の特性を正しく反映したものなのか、ということである。もしかすると2N3055も多年に渡って製造され続けているTRであるから、徐々に特性改善され、その結果がオンセミの最新2N3055のPSpiceモデルには反映されているということかも知れない。し、もしかするとオンセミ2N3055はいにしえのモトローラ2N3055とは中身が異なるものなのかも知れない。が、それはここでは検証不能である。

だからここはあくまで“妖しきシミュレーション”なのである。(^^; < 威張ってどうする(−−)




オンセミ2N3055の低電流領域のVbe−Ic特性を拡大したもの。この辺が現実のアンプでの実用域だ。
このグラフからするとIc=100mA付近でのgmは5S程度、300mA付近では10S程度である。上で使用した別の2N3055のモデルではIc=100mA付近でのgmが1.5S程度、300mA付近では7.5S程度であった。

このようにgmが違えば、上でやった2段目差動アンプの終段SEPPドライブ能力≒終段SEPPの低インピーダンス負荷ドライブ能力のシミュレーション結果も、多分良い方向に大きく変わるだろう。

オンセミ純正のPSpiceモデルに敬意を表してやってみようではないか。









設定は同じである。
終段2N3055のアイドリング電流は100mA程度に設定すると、2段目差動アンプの動作点は5.5mAとなった。





したがってこれを10kHz最大振幅11mAの方形波信号でドライブすると、





まず振幅電圧だが、
負荷2Ω時でピーク24.9V、4Ω時ピーク36.8V、8Ω時ピーク48.5V付近だがこれは電源電圧で飽和しているかも知れない。負荷16Ω時は電源電圧で飽和している。

これが上の別の2N3055の場合は、
負荷2Ω時でピーク14.9V、4Ω時ピーク25.7V、8Ω時ピーク40.5V、負荷16Ω時は電源電圧で飽和、であった。こちらの場合は2段目のドライブ電流振幅自体も大きかったから、この結果はやはりオンセミ2N3055のgmが大きいことによるものだ。

したがって、もしこのオンセミ2N3055のPSpiceモデルが現実のオンセミ2N3055の特性を正しく反映したものであるとすれば、現行のオンセミ製2N3055を用いれば、我がNo−139(もどき)の回路形式でも4Ω100W超の最大出力が可能である。ということになる。





ついでにダーリントン入り口のベース抵抗を330Ωと我がNo−139(もどき)その2設定にしてやってみる。
2段目差動アンプの動作点は3.67mAだ。




負荷2Ω時でピーク239V、4Ω時ピーク34.9V、8Ω時ピーク47V、負荷16Ω時は電源電圧で飽和している。
やはり220の場合に比較しわずかではあるが低下する。う〜む。やっぱりそうなのか・・・





あとはその方形波応答波形なのだが、上の2N3055に比較すればオンセミ2N3055の方が高速であることは明らかだ。が、立ち上がり立下りの姿からして100kHz程度のレベルだ。やはり上の2SK851や2SC5200には及ばない。

が、この辺は考えどころだ。これでもNFBが掛かってしまえば十二分に高速な回路になる。また高速な素子の方が発振を招きやすくそのためベース抵抗やエミッタ抵抗等を入れねばならず何のために高速素子を用いるのか分からなくなるということもありがちのようだ。まして音が良いかどうかは全く分からない。

ま、その辺は自分で試してみるしかないか(^^;



ところで、国内半導体メーカーにももっと自社半導体のPSpiceモデルを提供して欲しいものだ。

といったところで終了にしよう。

最後に繰り返しになるが、毎度のことだが以上のシミュレーション結果にはな〜んの保証もない。ので悪しからず。

また、登場したPSpiceモデルについては何もお答えできないので重ねて悪しからず。(^^;




(2004年2月7日)






(0.1Ω)



0.1Ωを忘れていた。(^^;

我がNo−139(もどき)達にはこの終段2N3055等のエミッタ抵抗を省いてしまっているのだが、これを付けないと熱暴走の危険が増すので普通は付けるべきものだ。またこれを付けることによってその電流帰還作用により終段TRのリニアリティも良くなり、周波数特性も良くなる。また、このエミッタ抵抗は保護回路の保護条件検出センサーとしても活用できる。したがってこの抵抗を取り外して音が良くなったなんて悦に入っているのははっきり言ってバ○だ。 > (^^;

そこで、0.1Ωのエミッタ抵抗を付加した場合の方形波応答をオンセミ2N3055で観てみよう。

と、それがこれなのだが、終段のアイドリング電流を100mA程度と同様にセッティングすると0.1Ωによる電圧降下分2段目の動作電流が0.05mA増えてその動作点は5.55mAとなった。






が、入力方形波の振幅は上のエミッタ抵抗がない場合との比較のため±5.5mAとする。

さあどういう結果になるか・・・





あやや、随分電圧振幅量が減ってしまった。負荷2Ω時でピーク14V、4Ω時ピーク25.4V、8Ω時41V、負荷16Ω時は飽和していると見ていいだろう。
これがエミッタ抵抗がない場合は負荷2Ω時でピーク24.9V、4Ω時ピーク36.8V、8Ω時及び16Ω時飽和だったから、2Ω時で56.2%、4Ω時で69%もピーク電圧振幅量が減ってしまったのだ。

この結果からすると、エミッタ抵抗0.1Ωを付加した場合はオンセミ2N3055を起用した場合でも4Ω負荷や8Ω負荷に100W超の電力を供給するためには2段目はNo−139型式では駄目であり、No−174及びNo−176で起用された型式が必要である、ということになる。

ふ〜む・・・、そうなのか。

何故か?

それはたった0.1Ωのエミッタ抵抗による電流帰還作用で2N3055のgmが大きく減少するからである。






そこで0.1Ωのエミッタ抵抗を入れてオンセミ2N3055のVbe−Ic特性を観てみると・・・

なんと、随分と傾きが緩くなってしまった。やはり0.1Ωでかなりgmが低下するのだ。







そこでエミッタ抵抗を0Ω、0.05Ω、0.1Ω、0.2Ω、0.3Ω、0.4Ω、0.5Ωと変化させた場合のVbe−Ic特性をパラメトリック解析で一挙に観る。

グラフ左からエミッタ抵抗0Ω、0.05Ω、0.1Ω、0.2Ω、0.3Ω、0.4Ω、0.5Ωである。

傾きがgmだが、その角度から概観するとエミッタ抵抗が0.1Ωでgmは2/3に、0.2Ωではgmは半分になってしまうのだ。


な〜んと!







終段がエミッタ接地動作をしている完全対称型では終段のgm低下は即ちオープンゲインの低下である。

No−139型式についてはこのエミッタ抵抗の有無による音の顕著な変化が言われたが、それはほんの0.1Ωばかりのエミッタ抵抗がオープンゲインに、そしてそれは即ちNFB量に大きく直結しているということにもよるものだったのだろう。

最新のNo−174、176では低インピーダンス負荷対応能力と併せて、帯域を狭めてもオープンゲインをこれでもかと思えるほど獲得される方向での設定がなされているが・・・、多分0.1Ωがあっても、それによって音的に一層良くなっているのかも知れない・・・


「当然である・・・。」 ははぁ〜 m(__)m




(2004年2月15日)